人は信じているものしか目に入らない
心理学の分野では「確証バイアス」という人の心理機能を表す言葉があります。簡単に言うと、「自分が信じていることの根拠となる情報のみ、人は無意識に選んでいる」というバイアス(偏見)であり、例えば、「自分はダメだ」と信じていると、「勉強が出来ない」とか「ニキビがある」など、自分がダメなことを証明する情報ばかりを無意識に選びとり、一方、信じているものと反するもの、つじつまが合わないものは無意識にスルーしている心理的機能を言います。
もし親御さんや学校の先生が「この子には問題がある」と信じていると、親御さんや先生の脳は全力でその問題を証明するための根拠を探します。逆に「この子には問題がある」という信念に反するような良い現実は無意識のうちにスルー、つまり、気づけないようになってしまうのです。「この子に問題がある」ことは、一つの側面にしかすぎないのに、親御さんや先生にとって、それが「真実」になってしまうことがよくあります。学校でA君が遅刻した時、先生は理由も聞かずにいきなり怒るけど、B君が遅刻した時は「どうしたの?」と理由を聞いているような光景、もう、この「確証バイアス」の影響が見て取れますよね。これは何も親御さんや先生が悪いというお話ではなく、人間である以上、誰しもがこのようなバイアスをもつ傾向があります。ですから、この心理機能を理解しておかないと「本当の事実」と「自分の解釈」がごっちゃになってしまい、目の前のお子さんや生徒さんへ適切な対応ができなくなってしまいます。
「確証バイアス」に振り回されず、目の前の人の「ありのまま」と向き合うために、私はよくお会いする際に、必ず心の中で「この人の良いところはどこなんだろう?」と何度か自分に向かって、質問した後に面談をするようにしています。そうすることで、今まで見過ごしていたかもしれない「プラスの情報」に気づきやすくなるんです。「この子は大丈夫だ」と意識的に信じ込もうとすると、脳が勝手にその根拠を探し始めます。この自問自答を事前にすることは、目の前で思い悩んでいる方の中にある「心の強さ」に目を向けることを手助けしてくれます。
今、皆さんの目の前には、家でずっと寝たままのお子さんの姿があるかもしれませんし、ベッドの上でずっとスマホを見ながら、一日中、何もせずに過ごすお子さんの姿があるかもしれません。でも、あえて「この子は大丈夫」という言葉を、気持ちはこもってなくても構いませんので、ご自身の中で呪文のように唱えてみてください。これまで見過ごしていたその子の「プラスの情報」に気付くことがあるかもしれませんし、その気づきが安心感を与えてくれると思います。さて、皆さんは誰にどんな「確証バイアス」を持っているでしょうか?ぜひ、一度、ゆっくり検討してみてください。