不登校生にお勧めする日々の過ごし方
毎日、家にずっといる不登校の中高生の多くが昼夜逆転していたり、ベッドの上でスマホをいじっていたり、学校の課題をしていなかったりと生活リズムが崩れていて、ご心配されている親御さんも多いのではないかと思います。少なくとも復学に向けて朝だけは時間通りに起きてほしい、学校に行かない分、課題だけはやってほしい、食事だけは毎回しっかり食べてほしい等、色んなことを思われるけれど、その通りにはならないお子さんの姿を見るたびに、イライラを募らせてしまうことも、もしかしたらあるかもしれません。今回は不登校生にお勧めする「家での過ごし方」について、お話できればと思っています。勿論、お子さんやご家庭の状況によって異なるため、詳しく「朝は〇〇して、昼は〇〇して・・・」とお伝えすることはできないのですが、「こういう視点でお子さんの日々の過ごし方を見られたら、また違ったものが見えてくるんじゃないですか?」という観点でお話させていただきます。キーワードは「クリエイティビティ」です。
「クリエイティビティ」に目を向ける
今、私たちは働き方や価値観など、これまで「常識」とされていたものが劇的に変わりつつある社会の中に生きています。昨今の「働き方改革」やコロナ禍によるリモートワークやワーケ―ション、オンライン授業の導入をはじめ、「あ~時代は変わりつつあるのかなあ」とニュース等で耳にして、実感がなくとも既にご存知の方も多くいらっしゃると思います。今の不登校である中高生が、大人になって働く20~30年後など、私たち大人でも想像できない社会が待ち受けていることでしょう。例えば、在宅勤務(テレワーク)が当たり前になっていたり、複業して、フリーランスのように少人数で自分と合う人たちだけで働くという働き方も普通になっているかもしれません。現に私自身、今、30代半ばですが、周りには子どもの頃には知らなかった職業や働き方をしている人たちが本当に多くいます。そういう方々に自分が関わっている不登校のお子さんに会ってもらい、話したりすると、「面白い発想しているね」等、ウケが良いことが多いのです。これまでの「常識」であった「『終身雇用』の安心安全を保証するので、嫌な人間関係や理不尽なことがあっても我慢して耐えなさい」という価値観が少しずつ通用しなくなってきており、それよりも「将来は保証されていないんだから、今を楽しく・面白く生きた方がいいじゃないか」という価値観が20~30代をはじめ、どんどん大きくなっているように感じますし、それは日本だけでなく、世界の潮流でもあるようです。(多くの中間管理職の方が部下の育成に悩まれているのも、この価値観の違いが大きく関連しているみたいです。)
ここで私が何を言いたいかというと、いま世の中が「我慢」よりも「クリエイティビティ」や「発想の豊かさ」に価値を置きはじめているという「現実」から、今の不登校やひきこもりという状態を見てみたいということです。WHO(世界保健機関)は、このような時代の移り変わりに子ども達が将来、社会でいきいきと生きていけるように、これからの時代に必要なライフスキルを10項目掲げ、1994年に各国の学校の教育課程に、このライフスキルの修得を導入することを提案しています。
ライフスキルとは、日常的に起こる様々な問題や要求に対して、より建設的かつ効果的に対処するためのスキルと位置づけており、 「①意志スキル ②問題解決スキル ③創造的思考 ④批判的思考 ⑤コミュニケーションスキル ⑥対人関係スキル ⑦自己認知 ⑧共感的理解 ⑨情動に対処するスキル ⑩ストレスに対処するスキル」の10項目を掲げています。おそらく、「不登校」という状態から親御さんがご心配されるのは、「⑤コミュニケーションスキル」や「⑥対人関係スキル」の部分でしょう。
一方、これは私自身の経験なのですが、この10項目の中で、特に「③創造的思考」「④批判的思考」「⑧共感的理解」が非常に高いお子さんが不登校に多いように感じるのです。部屋で絵を描いていたり、ライトノーベルを読んで主人公の思いに耽ったり、「結構、これからの社会に必要な力を磨いているなあ」と感じるお子さんに会うことがよくあるのです。「そんな絵ばっか描いてないで勉強でもしたらどうなの?」と仰る親御さんをみると、「お母さん、この子、ライフスキルの一つをちゃんと磨いていますよ」と、これからの時代に必要な10種のライフスキルを知っている分、少し勿体なく思ってしまうのです。
今、角川ドワンゴ学園N中等部・高等学校様がこのライフスキルの観点から「21世紀型スキル学習」のプログラムを開発されており、私自身も2019年11月からこのプログラムの監修に携わっていますが、ポジティブサイコロジーの「強み」だけでなく、デザイン思考や探索学習だったり、とても画期的で面白く、「これからの社会」に合わせた取り組みでとても感銘を受けています。勿論、国数英理社という教科が無くなることはありませんが、これからの教育はもっと教科も多様化され(実際に欧米圏では科目も選択制ですよね)、今、不登校のお子さんが家の中でされていることも逆に評価されはじめる時代がくるんじゃないかなと思っています(し、結構、これは確信しています)。
当スクールは、このWHOが掲げる「ライフスキル」を重要視しています。なぜなら、今の子ども達が実際に生きる「これからの社会」の準備をサポートすることこそ、我われ大人の役割だと思うからです。そのために、私たちは不登校やひきこもりのお子さんと一緒に、自分の「強み」を理解し(⑦自己認知)、その「強み」を活かして、どのように問題を解決するか(②問題解決スキル)、情動やストレスに対処するか(⑨, ⑩)、自分ならではのコミュニケーションの取り方をしていくか(⑤)等を話し合い、実践に結びつけられるようサポートすることにフォーカスしています。
話が少し飛躍してしまいましたが、今、目の前にいる不登校やひきこもりのお子さんがしていることで、この「ライフスキル」(特に「創造的思考」)に繋がる要素がないか、一度、観察してみてはいかがでしょうか?ひょっとすると、これまでの不登校のお子さんの過ごし方に対する見方が少し変わるかもしれませんし、そこから意味のある対話が生まれるかもしれません。勿論、お子さんの日々の過ごし方や不登校やひきこもりの状態になった背景がそれぞれ異なるため、一概には言えませんが、何か「ピン」とこられた親御さんがいらっしゃいましたら、「まさにそれですよ、お母さん!」とお伝えしたいです。